液晶セル中での界面近傍の分子の拡散挙動を研究するための全反射強制レーリー散乱装置を世界で初めて試作した。この装置を用いて、一様に廃校したネマティック液晶中での棒状染料分子の拡散定数に対する界面の影響を調べた。この結果、界面ではバルクと比較して速い信号の緩和が認められた。この信号が確かに界面の効果であることを確認するために、入射角を変化させ、光の侵入長を変え信号の緩和過程を観測した。入射角を臨界角に設定すると確かに速い緩和は見られず緩和時間はバルクでの値と一致した。しかし、侵入長に対する緩和時間のシステマティックな依存性は得られなかった。最も入射角を大きくした場合で約200nmの侵入長で測定を行ったが、この時もバルクの信号の寄与が圧倒的であった。このように拡散に与える界面の影響はおそらく100nm以下の非常にわずかの厚さにとどまっていることがわかった。 見逃してはならないもう1つの知見として全反射強制レーリー散乱にはしばしば異常な信号が見られた。特に等方相-ネマティック相転移点近傍でよく見られることからコンプリメンタリー回折格子、すなわちシスリッチな等方相とトランスリッチなネマティック相の2つの回折格子の形成が予知される。従って、速い緩和過程はこのような効果による見かけの効果である可能性もある。詳細は今後の課題として残された。
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