研究概要 |
正孔濃度が10^<21>cm^<-3>という超高濃度カーボンドープp形GaAs薄膜を用いたカーボンドープベース超高速HBTの実現を目的としている。初年度(平成5年度)はこの超高速HBTの作製に不可欠な要素技術である1)超高濃度ドーピング半導体薄膜の作製技術の確立と、2)新しいエミッタ材料の開発、3)それらのHBTへの応用と高周波HBTの設計指針を得ること、が目的である。更に本研究では、有機金属分子線エピタキシー(MOMBE)法により、アルシン(AsH_3)やフォスフィン(PH_3)等の非常に有毒な成長原料ガスを用いない、より安全な結晶成長技術の提案・開発も行っている。具体的な成果として、1)はMOMBE法を用いることでHBTへの応用に十分である高濃度カーボンドープp形GaAs、InGaAs半導体薄膜の作製技術を確立した。特に、GaAsにおいては1.5x10^<21>cm^<-3>,In_<0.5>Ga_<0.5>Asでは5x10^<19>cm^<-3>の高濃度カーボンドーピング技術の開発に成功した。2)は従来から用いられてきたAlGaAsに代わる新しいエミッタ材料としてIn_<0.5>Ga_<0.5>Pを提案した。In_<0.5>Ga_<0.5>PはAlGaAsと比べて表面再結合速度やGaAsに対する価電子帯の不連続量が大きい事から新世代HBTのエミッタ材料として期待されている。これらリン系エミッタ材料の結晶成長には毒性の高いPH_3を用いるのではなく、より低毒性な有機金属ガスであるターシャリブチルフォスフィン(TBP)を用いたMOMBE法により行った。その結果、In_<0.5>Ga_<0.5>Pでは残留不純物濃度が10^<15>cm^<-3>台の高純度半導体結晶を得ることに成功した。また、ジシラン(Si_2H_6)を用いたSiドーピングを行い電子濃度の良好な制御が可能であることを明らかにした。3)では、1),2)の技術を統合し、ベース層に1.5x10^<21>cm^<-3>の超高濃度p形GaAs薄膜を有するカーボンドープベースIn_<0.5>Ga_<0.5>P/GaAs HBTを世界で初めて作製した。この10^<21>cm^<-3>ベースHBTの静特性を評価した結果、小信号電流利得4.2が得られ、超高濃度ドープ半導体中での少数キャリヤの振る舞いに関する新たな知見が得られたものと考えられる。
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