研究概要 |
塗膜下腐食あるいは被膜の劣化の定量的評価法が未だ確立していないことから,本研究は被膜劣化,塗膜下腐食を非破壊的に,また継続的に定量計測し,これらの被膜の耐食性,耐久性を評価する方法を開発することを目的とし,半導体レーザーを落射式顕微鏡に組み込み,試料表面を観察しながら直径数μmレーザー光束を照射・走査し,光音響信号(振幅および位相差)より光音響像を描き,劣化・不良部の位置および2次元的広がりを検出する測定装置を試作した。 試作した顕微光音響(MPA)測定装置は,100mWの近赤外半導体レーザーを使用し光束を5μm以下に絞ることが可能で,ほぼ同程度の空間分解能を期待できる。この装置により(1)塗装されたステンレス鋼の腐食による劣化過程の追跡と(2)ドライプロセスで作成されたTiNコーティングの劣化過程を測定した。 (1)「塗装されたステンレス鋼の腐食による劣化過程の追跡」では,エポキシ樹脂系とフッ素樹脂系の塗料について下地処理なしで塗装し,人工欠陥を与えた試料についてアノード,カソード分極により劣化を加速したところ,分極のかなり早い段階で塗膜は栗が進行しすることがMPA像から確認された。また,ステンレス鋼へのこれら塗膜の密着性は低く,フッ素樹脂系塗膜では人工欠陥部からやや離れた位置に隙間腐食が起こることがMPA像および塗膜の剥離試験から確認された。しかしながら,鋼板の場合に比較して腐食速度が小さく,腐食生成物の量も少ないことから,光音響信号による検出はかなり難しいことがわかった。 (2)「TiNコーティングの劣化過程」では,鋼板およびステンレス鋼板上にドライプロセスにより作成したTiN膜の腐食劣化は,コーティングに存在したピンホールなどの欠陥を核に進行すること,MPA光源にArの可視光を使用した場合と半導体レーザーの近赤外光の場合では,コーティングや腐食生成物層の透過度の違いから塗膜劣化に関する異質の情報が得られることがわかった。
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