本研究は平成4年度から3年間の研究計画に従って実施しているが、平成4年度のアルミナ-クロム3段傾斜膜の結果に従って、平成5年度には5段傾斜を実施する計画であった。これまではアルミナ-クロム傾斜皮膜は下地鉄にアルミナ粉末とメタライジング用金属として電解クロム粉末を用いてプラズマ溶射により作製して来た。しかし、平成4年度の研究において、金属クロムとして電解クロムの代りにダクタイルクロムを用いると、アルミナとの熱膨張係数に大きな差がないことや、電解クロムに比べ耐食性に優れていることから、3段傾斜膜の耐食・耐熱特性が飛躍的に向上し、むしろ多段の傾斜膜は、使用している溶射装置では濃度傾斜分布の詳細なコントロールが難しいことから、ダクタイルクロムを用いた3段傾斜膜(下地鉄-クロム-(クロム+アルミナ混合)-アルミナ)の溶射を行ない、設計通りの組成の傾斜膜を得るための各粉末の供給速度および溶射条件の設定を行なった。また、二つの粉体を溶射時に混合するよりも予め混合した粉体を溶射した方が、機械的、熱的特性が優れていた。研究は中間層を溶射する際のアルミナ-ダクタイルクロム混合比を種々変えて、それらの試料の電気化学分極特性と熱歪特性を調べた。いずれも分極実験後、炉外に出して急冷しても熱歪による割れは観測されなかった。腐食電流値は中間混合層の粉末重量混合比Al_2O_3:Cr=19:1に最低値が現れ、最適濃度が存在することが分った。しかし、溶射効率は粉体により相違するので、溶射膜の組成は粉体混合比と一致しない。そこで、中間混合層内のクロム濃度をEPMAにより調べると、クロム含有量が40atm%の時、最も低い腐食電流密度を示し、年間0.2mmの減肉速度のものが得られた。また、腐食電流密度は最外アルミナ層の厚さが厚いほどほゞ比例して腐食電流密度は低下した。これは溶射膜の欠点である細孔を通じて腐食反応物質の拡散が律速するためであり、交流インピーダンス測定結果と一致した。
|