現在セルロース、キチン等の炭水化物は、一部糖化による食品や合成原料への利用が試みられているものの工業的には不満足である。これは高価な酵素や反応装置に厳しい強酸触媒を用いることに起因するためである。これに対し、今回我々は独自に合成した単純な糖脂質が上述した炭水化物を穏やかな条件下に加水分解するということを見出した。本年度は各種糖残基の触媒活性に及ぼす影響を詳細に検討した。 本研究で用いた糖脂質は単糖類とジラウリルアミンをチアゾリジン環を介して結合させた自己ベシクル形成化合物であり、これを糖がグルコースの場合のGlc(Lau)_2のように表示する。反応は60メッシュに粉砕した炭水化物に0.01M触媒溶液0.5mL、Tris緩衝液(pH7.80)5mLを加え、15分間超音波処理した後50℃で分解反応を行った。反応はSomogyi-Nelson法により生成する還元糖を定量して行った。 炭水化物の加水分解速度定数によると、加水分解は糖の種類に大きく左右され、セルロースの場合にはXyl(Lau)_2>Gal(Lau)_2>Man(Lau)_2>>Glc(Lau)_2>Fuc(Lau)_2の順に活性が小さくなった。またキチンの場合にはXyl(Lau)_2>>Glc(Lau)_2>Fuc(Lau)_2>Man(Lau)_2>Rha(Lau)_2>>Gal(Lau)_2の順であり、セルロースの場合と異なっている。これらの糖部分の立体配置を見るとキチンでは4位の水酸基が活性に関係しているようであり、この水酸基が他の水酸基と異なってプロトンを出しやすいという生体内での反応を考え合わせると興味深い。また本研究での加水分解反応は酵素モデル反応となり、その速度は基質の取り込みにあることも見出された。
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