研究概要 |
耐熱性に優れた,強い圧電効果をもつ強誘電性高分子材料をフッ化ビニリデン(VDF)系高分子結晶で開発する目的で、高いVDFmol分率をもつVDFと3フッ化エチレン共重合体P(VDF-TrFE)が厚いβ型ラメラ結晶に結晶化する温度・圧力条件,高圧結晶かと常圧結晶化過程とそれによって得られる結晶の構造,形態,物性について研究した。 種々のVDFmol分率(x)をもつP(VDF-TrFE)を分成し,x>0.80の試料について,圧力とCurie温度Tc(あるいは斜方(ortho)晶-六方(hex)晶相転移温度)と融点Tmに関するP-T相図を得,厚いラメラ結晶を得るための温度,圧力条件をほぼ決定することができた。x>0.82ではhex相での結晶化には高圧が必要であるが,準安定なhex相がTc以下でも存在し,β型結晶が成長する。この知見は熱分解のない圧電材料の作製に重要である。 融液から冷却して分子鎖の滑り易いhex相で結晶化させると,約1μmの伸び切り鎖結晶(ECSC)が得られることがわかった。PEと同様に,ECSCの形成には分子鎖の滑り拡散による結晶の厚化成長がこの共重合体でも重要な役割をもつことが示された。また,P(VDF-TrFE)延伸薄膜を負荷とする厚みずり水晶振動子の共振挙動の温度依存性から,hex相では分子鎖に平行方向のずり弾性率がTc以上で急激に低下することを見いだした。ずり応力に対して,分子鎖に垂直方向には固体結晶,分子鎖に平行方向には液体的振舞いをする一種の液晶であることがわかった。 高圧結晶化の基礎と材料開発のために,固体圧縮高温高圧結晶化装置,光学窓付高温高圧結晶化観測装置を設計し導入した。また,超音波トランスジューサのパルス応答特性を調べるために,スペクトルアナライザーを導入した,P(VDF-TrFE)圧電膜とPZTとを複合させたトランスジューサを試作し,両者材料の特長をもつ性能が確認できた。
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