研究概要 |
耐熱性に優れた,強い圧電効果をもつ強誘電性高分子材料を開発する目的で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),および,高いVDFモル分率をもつVDFと三フッ化エチレンの共重合体P(VDF-TrFE)を初年度に求めた斜方晶,六方晶,液相の温度と圧力の関係(温度-圧力相図)に従って,高温・高圧下で伸び切り鎖β型ラメラ結晶を生長させ,得られたβ型結晶化膜を高電場で分極して,圧電性を評価し,さらに膜の構造を調べた.また,強い圧電効果の出現のために重要なラメラ結晶の高次構造の形成について検討した.得られた主な成果は次ぎのとおり. 1.低圧の液相(例:2kb,270-280℃)から昇圧(5-6kb)して出現する六方晶相において結晶化したβ型PVDF膜を新しい方法でポーリングすることにより,205℃に融点と電気機械結合係数kt=0.25-0.27をもつ耐熱性圧電膜が得られた.従来のPVDF膜よりも耐熱性,圧電性が極めて優れている.この結果,0.3以上のkt(高分子で未実現)の高分子膜を得る見通しを得た. 2.延伸P(VDF-TrFE)膜を特殊な方法で常誘電相で結晶化すると,高度に結晶化し,かつ結晶a,b,c軸が膜全体にわたって配向した単結晶膜が得られた.この膜ではラメラ結晶は成長せず,分子鎖は伸び切り,力学強度も圧電性も強い.高分子では全く未知の新型結晶膜である. 3.P(VDF-TrFE)のラメラ結晶のなかに,強誘電性ドメイン構造が存在することを,暗視野電顕像で観測した.高分子強誘電体で観測されたのはこれが最初である. 4.P(VDF-TrFE)結晶内の分子鎖は常誘電相では鎖に沿っては液体であり,それに垂直方向には固体結晶として振舞う一種の液晶状態であることを横波超音波の異方性の測定からわかった. 5.セラミック圧電板に高分子圧電膜を積層した超音波送受波子を試作した.独立な2周波駆動が可能であり,また前者で送信,後者で受信すると,高いS/N比で高感度の送受波ができる.
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