研究概要 |
本研究では,分離対象物の不斉構造を高度に識別可能な酵素や機能性高分子素材を適用することにより,光学異性体の高度分離に適合する限外ろ過膜の製膜技術を開発することを目的とし,種々検討を行い以下の結果を得た。なお,不斉認識部位を高分子膜素材に導入するためにプラズマ重合装置を購入した。 1.アミノ酸固定化膜不斉源としてL-フェニルグリシンを選び,グルタルアルデヒドとの反応により得られる縮合物をポリスルホンとともに湿式法によりアミノ酸固定化膜を得た。製膜条件を種々検討したところ,溶媒蒸発条件を60℃,65分としたとき最良の結果が得られ,その時のラセミ体フェニルグリシンの分離係数は9.1であった。また,L-フェニルグリシン固定化膜が,種々の芳香族アミノ酸の光学分割に適用可能であることを見出した。 2.プラズマ重合膜膜素材に導入する不斉認識部位として,光学活性テルペン類であるL-メントールを用い,支持膜として多孔質構造を有するセルロースアセテート膜を用いた。L-メントールの不斉構造が膜中でも保持されていることを確認し,プラズマ重合条件を種々変化させ膜を調製したところ,プラズマ照射時間を長くすることにより,L-メントール固定化量の多い緻密な膜が得られることが明かとなった。 3.酵素固定化膜非ステロイド系抗炎症剤であるイブプロフェンを用い酵素反応特性を種々検討したところ,Candida cylindracea起源のリパーゼが高い基質選択性を示すことが見出された。酵素固定化法としては,酵素失活時に膜の再生が容易な物理吸着法を採用し,酵素固定化膜を用いた回分式メンブレンリアクターによるイブプロフェンの光学分割を行ったところ,生産性と光学純度が相反することが明かとなった。また,物質収支式より得られた理論計算値と実験値が良い一致を示すことを明かとし,メンブレンリアクターの操作条件設定に重要な知見が得られた。
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