研究概要 |
心不全は死亡率の重篤な心臓疾患であり,その治療薬の開発は急務となっている.このような時代の要求から最近の10年間に種々の新しい心不全治療薬が開発された.これらの心不全治療薬の中で,心筋収縮性を改善するいわゆる新しい強心薬は,血行動態改善,運動耐容能改善,生活の質の向上など急性心不全の優れた治療効果をもつことが証明された.しかし,慢性うっ血性心不全に対する治療効果に関しては,大多数の新しい強心薬はむしろ寿命短縮効果をもつことが報告され,強心薬の使用自体に疑問が投げ掛けられるという状態が続いていた.しかし,最近ベスナリノンに寿命延長効果があることがアメリカで報告され,にわかに再脚光を浴びるに至っている.本研究では,新しい作用機序による薬物の機序の解明により,強心薬開発のための基礎を確立するための実験が施行され,以下の成果が得られた. 新しい強心薬の中には細胞内cAMP蓄積により陽性変力作用を出す強心薬が多い.これらの強心薬にはβ_1-partial agonist(β_1-PA)とPDE-III阻害薬(PDE-III-I)がある.これらの強心薬による収縮蛋白Ca感受性減少作用が,β-受容体full agonistのイソプロテレノール(ISO)と異なるかどうかが,Ca感受性発光蛋白質エクオリンを微小注入したイヌ摘出右心室筋肉柱標本をもちいて検討された.興味あることに,β_1-PA(denopamine)はISOと同様のCa感受性変化を惹起したのに対し,PDE-III-I(OPC-18790)によるCa感受性減少は明らかにISOよりも少ないことが明らかとなった.分子レベルにおける機序は現在のところまだ不明だが,心筋細胞内におけるcAMP蓄積の局在が,これらの強心薬による収縮性調節に非常に重要な意義をもつことが示唆された.一方,Ca感受性増強薬の臨床的治療効果にも大きな期待がもてるので,これらの作用機序で強心作用を出す薬物の作用機序が細胞レベルで検討された.これらの結果は外国の循環器および循環薬理学の雑誌に発表された(裏面文献参照).
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