研究概要 |
心不全の治療における強心薬の問題点は,強心作用と心臓エネルギー効率のバランスである。従来,心筋細胞cAMP蓄積を起こす強心薬は,その酸素消費増加作用により不均衡にエネルギー効率を下げ,さらにCa過剰負荷により心筋細胞死を引き起こす危険性があるとされていた。その代表的なものがカテコールアミンのイソプロテレノール(ISO)であり,実験的にもこの化合物が心筋細胞死を生じさせうることが示されていた。しかし,xAMP蓄積により強心作用を発揮する選択的phosphodiesterase(PDE)III阻害薬は,cAMP蓄積作用が少なく,不整脈発生やCa過剰負荷を起こす作用が少ないことが実験的に証明され,心不全治療薬としての効果が期待されている。事実,選択的PDE III阻害作用により強心作用を発揮するキノリノン誘導体ベスナリノン(OPC-8212)は,心不全患者の生命予後改善作用をもつことが,日本 および米国における臨床試験により報告され,現在大規模な臨床試験が進行中である。OPC-8212の陽性変力作用は,cAMP蓄積にともなわれているが,難水溶性のため作用機序の分析は困難で,また経口投与によってのみ投与可能である。新しいキノリノン誘導体OPC-18790[($)-6-[3-(3,4-dimethoxybenzylamino)-2-hydroxypropoxy]2(1H)-quinolinone]はOPC-8212に類似した作用をもち,しかも水溶性である。この化合物は,ISOと同様に細胞内Caトランジェントの増加と 弛緩速度促進作用にともなわれた陽性変力作用を惹起するが,ISOとは異なり,Ca感受性減少作用を出さない。同じの実験系で,他の選択的PDE III阻害薬のミルリノンおよび低濃度のOrg 9731(4-fluoro-N-hydroxy-5,6-dimethoxy-benzo[b]thiophene-2-carboximidamide methanesulphonate)も,Caトランジェントと収縮張力の関係にOPC-18790と同様の作用を惹起するので,Ca感受性減少作用のないことは,PDE III阻害薬に共通の特徴であると考えられる。
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