研究概要 |
1978年、森田らはEchis carinatus毒からプロスロンビンを特異的に活性化するアクチベータ-を単離し、金属プロテアーゼの1種であることを明らかにした。その後、このアクチベータ-はEcarinと呼ばれ、今日、プロスロンビンの活性化に広く利用されている。本年度は、Ecarinの厳密な基質特異性を明らかにするとともに、より多くのdisintegrinについての構造情報を得るため、EcarinのcDNAクローニングを行った。 ケニア産の毒から精製したEcarinの部分アミノ酸配列をもとに、オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、次いで、PCR処理産物を用いて毒腺由来のcDNAライブラリーのスクリーニングを行った。その結果、全長2,386bp、アミノ酸616残基をコードするクローンを単離した。その塩基配列は全体を通して、最近、cDNA配列の明らかにされた高分子量出血因子のjararhaginと高い相同性を示した。また、成熟Ecarinはプロシークエンス領域と考えられるアミノ酸190残基が切り出されたもので、残りの部分の配列は高分子量出血因子HR1B(ハブ毒)や血栓毒RVV-Xのheavy chainと相同性があった。すなわち、Ecarinはmetalloproteinase,disintegrin及びCys-richという3つのドメイン構造から成るモザイクタンパク質であることが明らかとなった。さらに、プロシークエンス領域に哺乳類プロコラゲナーゼ族の活性化に関与する“cysteine switch"様の配列が見い出された。さらに本年度は、これまで我々の研究室で構造決定してきたHR1BやHR1A,RVV-X,HT-1,Ecarinから由来するdisintegrin族のアミノ酸配列を基に、抗血栓性を示すとされるペプチド領域のドラッグデザインを試みた。それらペプチドの合成と抗血栓性については、目下、研究を進めつつある。また、久留米大学分子生命科学研究所の諸井将明教授との共同研究において、HR1Aに極めて強い抗血小板粘着(コラーゲン)活性を見い出した。今後もdisintegrinの機能発現領域の特定を行うとともに、それらの構造情報を広く活用しつつ抗血栓剤開発の基礎研究を進めたい。
|