ヒトHLA型はヒトの細胞性免疫に関与しており、極めて多様性に富んでいる。法医学領域では、従来は多数の特異抗体による型判定が親子鑑定に用いられてきた。ただ、抗体による検査は細胞を用いるので新鮮な血液でしか判定できなかった。しかし、HLAクラスIIでDNAからの型判定が可能となり、とりわけDNAポリメラーゼによる増幅反応(PCR)が利用されるようになり、陳旧で微量な斑痕などの法医物体検査に応用が可能となってきた。HLAクラスIIのタイピングは、まずPCR法により特定の座位の遺伝子を増幅し、次いでその遺伝子の塩基配列の差異を制限酵素による切断パターンの差として読みとったり、塩基配列特異的プローブとの結合の有無により読みとることにより行う。これらの手法はすでに確立され、充分に法医鑑定にも応用が可能であるが、HLA型の多様性を反映し、操作が煩雑となるのは避けられない。最近では塩基配列を直接読みとる技術が進歩したことから、本研究では、この手法をHLAの型判定に応用することを目指した。しかし、法医資料となる斑痕を用いる場合、問題点は塩基配列の直接解読の技術よりも、阻害物質の混入が少ない、分析に適したDNAの抽出精製過程にあることがわかった。その点を工夫することにより、血痕、唾液、毛髪などから、HLAクラスII各型の判定が可能な良質のDNAを抽出精製することが可能となった。現在、HLA-DQB1型について直接塩基配列を決定することを試みている。
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