研究概要 |
我々はガソリン,灯油,軽油などの可燃性混合物について,これらの成分の体組織中からの検出方法を確立し,さらに検出された成分の種類あるいは濃度差によって混合物の異同鑑別を試みてきた.今回,ガソリンが作用した組織において,ガソリン成分がどの程度の期間,正確に検出され得るかということについて若干の知見を得た.また,腐敗によって付随的に産生される物質についても併せて研究を行った. ウィスタール系雄性ラットをガソリン蒸気に30分間暴露後,屠殺.室温放置し,体組織を採取した.採取した試料はガスクロマトグラフィー・質量分析計を用いて気化平衡分析を行った. 死後7日目に得られた肝臓試料では炭素数5〜8の鎖状および芳香族炭化水素が検出され,これらはガソリン成分のそれらと一致した.同様のパターンは心臓血について死後48時間,その他の臓器についても死後7日間を通じて認められた.なお,コントロールの試料からはいずれもガソリン成分は検出されなかった. 肝臓試料を用いて揮発性腐敗物質について同時分析を行ったところ,死後24時間から,イソプロパノール,ジメチルスルフィドおよびイソバレルアルデヒドが徐々に出現,増加し,さらに4日目からはエチルアセテートおよびジメチルジスルフィドが検出された。これらの物質は微生物の作用によって産生されたものと考えられ,それぞれのピークはm/z43〜94の特徴的イオンをモニターすることによって,ガソリン成分とは明瞭に区別することができた. さらに,ガソリン蒸気暴露において,体組織中芳香族炭化水素の濃度は死後7日間を通じてほぼ一定しており,従って,死直後の濃度推定が可能と考えられた.
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