研究概要 |
本研究は人体に侵入する薬毒物の微量検出法の確立およびその定量値の解釈の検討を目的として行っている. 本年度は,対照薬毒物として多硫化物に焦点をあてて,検討を行った. これまで,多硫化物(入浴剤ムトウハップなど)中毒の証明には,血液および体組織中から分解物である硫化物を分析していた.そこで,多硫化物そのものを体組織中から分析することを試み,硫化物および多硫化物同時分析法を確立した.また,この分析法を用いて多硫化物中毒における体組織中濃度および事例への応用を検討した. (1)動物実験 多硫化物入浴剤ムトウハップを用い,ラットにおける中毒時の体組織中硫化物および多硫化物の定量を行った.その結果,多硫化物濃度は血液が最も高く,続いて肝,肺および腎で,他の体組織は検出限界以下であった.硫化物はいずれの体組織からも検出されたが,濃度は血液が最も高くその値は硫化水素暴露中毒時の40倍以上であった.このことから,多硫化物中毒の証明のためには多硫化物そのものを測定することが望ましく,分析試料には血液が良いと思われる.また,血液中硫化物濃度は,多硫化物中毒の証明に補足的に使用することが出来ることが判った. (2)多硫化物中毒が疑われた2事例 入浴剤ムトウハップ中毒が疑われた事例2例について多硫化物濃度測定を行った.その結果,2例ともは多硫化物濃度が動物実験の値より7〜16倍と高い値を示し,硫化物濃度はどちらの場合も硫化水素中毒の場合より非常に高い値であった.以上の結果よりこの2例とも死亡原因は,多硫化物中毒であると判明した. 以上のように多硫化物中毒における分析方法の確立,最適な分析対照試料の検討,定量結果の解釈およびその応用例について検討を行った.
|