研究概要 |
パーキンソン病は臨床的に筋固縮、振戦、無動などを示し、病態生理学的に黒質神経細胞の選択的脱落によるドパミンの枯渇を特徴とする神経変性疾患の代表である。本症に対しては脳で減少したL-DOPAを補充する治療法が確立しているが、特に長期にわたるL-DOPA治療により、そのドパミン受容体が正常に働きにくくなるが分かってきており、L-DOPA長期治療に対する重要な問題点であるとされている。これに対して本研究では、ドパミン受容体の人為的発現調節を可能にし、常にフレッシュな受容体を産生する方法を確立し、それを臨床応用へと発展させることを目的としている。そこで、本年度はまず理論的基礎となる正常神経細胞におけるドパミン受容遺伝子発現調節の検討を行なった。すなわち、ヒト胎盤ゲノミックライブラリーを、PCR法によって作成したcDNAをプローブとしてスクリーニングし、ドパミン受容体D_1の2つのエクソンおよびその上流域4kbを含むクローンを単離した。現時点までの解析によると、上流2bの間にAP-1,AP-2のコンセンサス配列に加え、AT-richな領域が存在し、jun、fosあるいはPOUドメインをもつ転写因子群が発現調節に関与する可能性が考えられた。今後は、これらの転写因子の発現ベクターを用いたco-transfectionによるCATアッセイ、gel retardationアッセイなどの方法を用いて詳細な検討を行なう予定である。次にパーキンソン病で黒質神経細胞が変性脱落することに対して、それを阻止する機構として様々な神経栄養因子が関与する可能性についても検討した。特に脳由来神経栄養因子(BDNF)は、黒質神経細胞に対して栄養効果をもつことが知られているので、そのBDNFの発現に対するドパミンの影響を調べた。実際にはラットにL-DOPAを経口的に投与した後、BDNFの発現をノザン解析にて調べた。その結果、ドパミンはBDNFの発現を明らかに促進することを見出した。
|