パーキンソン病の新しい治療の原理を見いだすことを目的として、レボドパの体内動態、レボドパと神経栄養因子との関係、トパミン受容体の遺伝子解析、及びパーキンソン病の遺伝的素因について研究を行った。 (1)レボドパの長期投与により生じる効果減弱現象は、レボドパを長期にわたって経口投与することにより、レボドパの腸管からの吸収が促進されるからであることをラットを用いた研究により明らかにした。 (2)レボドパと神経栄養因子との関係について知るために、マウス線条体の脳由来神経栄養因子(BDNF)のmRNAのRT-PCRを行い、BDNFの発現に与える1か月に渡って大量経口的に投与されたレボドパの作用をin vivoで調べた。その結果、レボドパ投与後2〜16時間に渡ってBDNFのmRNAは持続的に増加した。この増加はハロペリドールで抑制されたことから、ドパミン系は直接BDNF遺伝子を制御していることが強く示唆された。 (3)ドパミン受容体のひとつである、D1受容体の発現を調節する因子について分子生物学的に検討した。まずこのD1受容体遺伝子の全長をクローニングし、米国のモラディアン女史との共同研究によりそのエンハンサー領域も構築した。その上で、転写因子のうち脳で作用することが期待されているPOUファミリーに注目し、このエンハンサー領域にPOU転写因子のひとつであるBrn-4が結合することを競合実験によって見い出した。さらにこの結合部位は2か所であることを確認したが、この2か所はともに欠失によりエンハンサー活性を失わせることから、そこにはサブレッサーが存在することが世界で初めて明らかになった。 (4)孤発生パーキンソン病患者の発病素因を調べるために、経口的に投与したデブリソキンの代謝能とチトクロームP-450遺伝子との関係を調べた。その結果、その代謝能が著しく悪い2名ではその遺伝子に1ベース置換の異常があることがわかり、両者の関係が強く示唆された。
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