研究概要 |
本研究代表者は一連の基礎生理学的研究において心臓の収縮性の指標としてEmax(最大エラスタンス)と心臓の収縮に伴って発生する機械的エネルギーを定量する指標としてPVAを提案、確立し、さらにPVAが、一拍毎の動静脈酸素濃度較差と冠灌流量との積である酸素消費量(Vo_2)と良好な直線関係を持つことを示してきた。本研究では、それらを利用し、カルシウム感受性の増強作用を有する強心薬ピモベンダンのEmax,PVA,Vo_2に対する効果を強心作用を有するカテコールアミンであるドーブタミンと比較検討した。 実験は、二頭のイヌを用い血液交差灌流摘出心臓標本を作製し、まず心室容積をかえながら等容積収縮を行なわせて、左心室容積と左心室圧を測定し、コントロールのEmax,PVA,Vo_2を測定した。そして、Vo_2-PVA関係をしらべると、良好な直線関係を示した。この勾配の逆数は、PVA-依存性のVo_2を全機械エネルギーに変換する収縮効率を表す。また、PVA=0の時のVo_2はPVAに依存しないVo_2(=興奮収縮連関に要するエネルギー)を表す。これら、すべてのパラメータは従来の結果と同様な値が得られた。ついで、ピモベンダンの濃度を次第にあげながらな冠注すると、ドーブタミンと同様に、Emaxは約2倍に増加し、Vo_2-PVA関係の勾配は変わらずに上方にシフトした。すなわち、収縮効率は変わらず、PVAに依存しないVo_2(=興奮収縮連関に要するエネルギー)のみ増加を示した。また、PVAに依存しないVo_2とEmaxの関係も直線になり、その勾配は、収縮性の酸素コストをあらわすが、ドーブタミンと同様であった。従って、カルシウム感受性の増強作用を有するピモベンダンも収縮性の酸素コストを節約する効果は示さず、ドーブタミンの作用と質的には同じ強心作用をしめした。
|