研究概要 |
本研究を通じ、1994年、西川武二を代表とする本研究グループは、本邦初の先天性表皮水疱症の出生前診断を施行成功させ、国際雑誌にその成果を発表することができた。(Shimizu,H.,Suzumori,K.,Nishikawa,T.et al.Prenatal diagnosis of epidermolysis bullosa;first successful trial in Asia.Dermatology 188:46‐49,1994)この成功は日本のみならず、アジアで初めての先天性表皮水疱症の出生前診断例として大きな意義を持ち、今後は日本人患者のみならず、韓国、台湾などの東南アジア諸国からの患者にも出生前診断の機会を与え従来であれば堕胎されていたであろう正常な胎児を救うという社会的貢献につながることが期待される。 本研究グループは先天性表皮水疱症の出生前診断の実施を目的として、慶應義塾大学病院皮膚科に遺伝外来を開設した。その結果これまで合計3例の出生前診断を施行しえた。特に先天性表皮水疱症は胎児皮膚生検以外には出生前診断が不可能なタイプがほとんどであり、胎児皮膚生検法が確立できたことも大きな収穫であった。 先天性表皮水疱症は世界的にも、皮膚科学教室領域の出生前診断施行例が比較的多い疾患である。先天性表皮水疱症は多くの亜型に細分されるが、その中でも特にHerlitz致死型先天性表皮水疱症、汎発性劣性栄養障害型先天性表皮水疱症、先天性幽門閉鎖症-接合部型先天性表皮水疱症症候群の3型は最重症型であり出生前診断の適応とされている。いずれの病型も、本研究を通じ、日本での出生前診断が可能となり、また実際に施行され、その結果すでに3人の正常な胎児を無事出産に導くことができた。われわれが本研究を施行していなければ、これら3例にはいずれも先天性表皮水疱症のリスクがあったため、両親のつらい選択により堕胎されていたはずである。このような意味においても、本研究が果たした社会的、臨床的意義は大きい。
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