1990年、本学ならびに京都大学で開始された生体部分肝移植には、2つの大きな問題点が内在されていた。その1つはどのようなドナーからどの程度まで肝臓をグラフトとして摘出する事が可能かという問題であり、他の1つは最低どれくらいのグラフトでレシピエントが生存することが可能かということであった。 我々は平成4年度以後31例(総計38例)の生体部分肝移植を行い、上記の疑問点を解決すべく検討を重ねてきた。その結果、31例中28例(38例中34例)が生存し、約90%の生存率を得ることができ、現時点での上記問題点に対する回答は以下のごとくである。 38例のドナーに外側区域切除14例、拡大外側区域切除13例、左葉切除11例を行い、ドナー全例に重大な合併症は発生せず、約1週間で退院し、2ヶ月以内には社会復帰をはたした。以上の事より、正常成人においてグラフト採取を目的とした左葉切除はなんら問題にならない事が明らかになった。 レシピエントに対する最小グラフトの限界は、レシピエントの体表面積から算出した標準肝重量の34%の重量のドラフトで、成人症例が生存しうることが確認された。この値は一般的に肝機能良好例において、安全に行える肝切除の切除量に迫る値であり、生体部分肝移植におけるグラフトが如何にviavilityが良好に保たれた状態で移植されているかを証明することにもなった。 これらの事より、生体部分肝移植においてはドナーとなる健常成人の肝左葉が、レシピエントの体表面積から算出した標準肝重量の34%以上あれば生体部分肝移植が安全に行える事ができると結論する事が可能である。この値は当初予想されていた値より小さい値であり、生体部分肝移植の適応を拡大することに大きく貢献するものと考える。
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