研究概要 |
I)培養細胞株CHOに遺伝子導入を行い、ヒトNGFおよびBDNF産生細胞を樹立した。この産生細胞が分泌するヒトNGFおよびBDNFは、ラット大脳皮質より得られた培養神経細胞を用いたグルタミン酸により誘発される神経細胞死に対して神経保護作用を発揮することを確認した(下濱 俊)。この研究結果は、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患や脳の虚血性疾患に対してバイオテクノロジーにより産生される神経栄養因子が将来臨床応用されうる可能性を示唆している。 II)ラット一過性前脳虚血モデルをもちいて、脳虚血に対するNGF,BDNFの関与を検討するとともに臨床応用の可能性を検討した。8分間の両側総頚動脈の結紮と低血圧負荷によりラット一過性前脳虚血を作製し、ラットNGFcDNA,BDNFcDNAプローブを用いたノーザンブロット解析及びin situハイブリダイゼーションによりNGFmRNA,BDNFmRNAの虚血後の変化を検討した。その結果、ラット一過性脳虚血後、前脳広範囲で、すみやかに内因性のtrophic factor遺伝子発現が起こること、in situハイブリダイゼーションにより細胞虚血後BDNFmRNAは海馬CA3領域、歯状回で上昇することが確認され虚血後の神経細胞死に神経栄養因子の遺伝子発現が何らかの関与がある可能性が示唆された(塚原徹也、谷口隆之)。 III)また同モデルにNGF、またはBDNFを脳室内へコントロールリリースし、in vivoで海馬CA1錐体細胞の遅発性細胞壊死(DND)に対する効果を検討した。またtrophic factor脳内投与により、一過性脳虚血後の海馬CA1領域のDNDが抑制され脳虚血病変に対してtrophic factorが治療薬となりうる可能性が示唆された(塚原徹也)。
|