顎関節症治療において良好な予後を獲得するためには、正確な鑑別診断と成因診断が必要とされる。これらの診断を客観的、かつ正確に行うため、我々は顎関節症診断エキスパートシステムの開発に取り組んだ。まず顎関節症データベースを構築後、400名を越えるデータを入力し、顎関節症の臨床症状の特徴を検索した。その結果、開口痛と開口障害は同時に発現するなど、顎関節症における各種臨床症状の発現様式には一定の規則性があることが認められた。また、発症因子が異なると臨床症状の特徴も異なることが認められた。すなわち、心因性顎関節症患者群では、主要症状の有症率が低く、肩こり、頭痛などの随伴症状の有症率が極めて高いことが明らかになった。義歯の咬合高径の低下に起因する場合は、疼痛症状や随伴症状の有症率が高く、顎関節部や後頭筋部の圧痛の発現率が高いことが、また、開口を有する患者群では顎関節部の疼痛の発現率が高く、咬筋における圧痛の発現率が低いことが明らかになった。一方、咬合干渉が成因の場合は、顎関節雑音と顎二腹筋後腹の圧痛の発現率が高く、開口障害の発現率が低いことが認められた。この患者群の咬合接触状態は咬合接触点数が少なく、左右側での咬合接触の不均衡が明確であった。さらに、臨床症状が片側のみに認められる割合が高く、観察された咬合異常部位も症状側と同側で、特に大臼歯部において下顎の前方、前内側方運動を規制する咬合小面に存在した割合が高かった。以上のデータベースによりもたらされた顎関節症における各種臨床症状の発現率や症状相互の相関、および成因の違いによる臨床症状の特徴などの情報は、顎関節症の鑑別診断、成因診断にエキスパートシステムを構築する上での基本的なルールとして有用であることが示された。今後はさらに情報を収集、分析するとともに本システムの完成を進めていく予定である。
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