研究概要 |
我々は,歯の動揺度自動診断システムを開発してきた。本研究の最初の段階として,このシステムの臨床での実用性を高めるために,測定時間の短縮化および測定プローブの小型化を図った。 次に,このシステムを使って,多数の健常歯の測定を行い,3つのパラメータの正常範囲を求めた。 このシステムが,インプラントの動揺度測定にも適用できるかどうかを調べるためにIMZインプラントの臨症例を測定対象としてカーブフィティングおよびパラメータ値が得られるかどうか測定した。その結果,インプラントにおいては,天然歯に比べて,大きなパラメータ値の得られることがわかった。このことから,動揺度自動診断システムによって,歯だけでなくインプラントの動揺度測定が可能なことがわかった。 さらに詳細に天然歯とインプラントの粘弾性特性の違いを調べるために,パラメータ値と歯冠歯根比との関係を調べた。その結果,これまで分析に用いてきたパラメータによって,天然歯およびインプラント周囲組織の力学的性状を測定できることがわかった。 しかし,動揺度自動診断システムは,チェア-サイドで用いるには大きく高価である。そこで,簡易型動揺度測定装置としてT-Mテスタを開発した。この装置は,ポ-タブルで測定時間が短くて済む。このテスタを用いて,天然歯およびインプラントについての測定を行い,モビリティ・インデックス(MI)が動揺度の指標として有用性の高いことを確認した。 研究の最終段階として,動揺度自動診断システムを用いて,天然歯同士を連結した場合の動揺度の経日変動を約2か間測定し,連結をしなかったコントロール群との比較を行った。その結果,天然歯は,連結固定することによて,歯周組織の粘弾性特性に影響が現われ,その影響は,連結後数日間に大きいことがわかった。このことから,連結という負荷によってダイナミックな変化が歯周組織内で生じていることが推察できた。また,IMZインプラント(チタンエレメントを装着した状態)と天然歯を連結した場合のそれぞれの動揺度を実際の臨床例で長期にわたり測定した。その結果,天然歯とインプラントでは,力学パラメータ値が約2倍から8倍インプラントの方が大きく,両者の周囲組織の粘弾性特性に大きな差のあることが認められた。今回の実験例では,連結固定前後で天然歯の動揺度の有意な減少はみられず,歯に対する動揺度軽減効果は認められなかった。しかし,天然歯での連結固定の結果から内部可動性の機構を持たないインプラントの動揺度は長期的に大きくなっていく可能性があり,この点については今後実験数を増やして長期の経過観察をする必要があると考えている。 今後は,複数の研究機関の協力によって,臨床データを蓄積していく予定である。
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