研究概要 |
平成4年度の計画に添って、我々の開発した方法、即ち、クモ毒の構造中に含まれるポリアミンのアミノ基の前駆体としてアジド基を利用する方法に従って、現在までにインドール酢酸、及び4-ジヒドロキシフェニル酢酸をC端に持つクモ毒素、NPTX-8,9,10,並びにJSTX-3,NSTX-3の全合成を達成した。尚、このアジド基をアミノ基の前駆体として用い、且つ、これをポリアミン型化合物の合成の重要中間体として設定した合成戦略は極めて独創的であり、一般性をもつ方法である。これらの成果を[日本薬学会112年会(福岡)]、及び日本薬学会主催の[反応と合成の進歩シンポジウム(札幌)]において発表した。加えてこの合成の成果は脳内グルタミン酸受容体、並びにその神経伝達機構の研究を行っている研究者にとっても緊急を要する情報として、速報誌テトラヘドロン・レタースに2報に分けて報告した。我々の合成した毒素の生理活性試験の結果、グルタミン酸による神経筋興奮伝達を特異的に遮断する作用をもつクモ毒の中で最高の毒と言われていたものが果して最強の毒素であるかどうかに疑義が生じ、天然品の純度等について再検討が必要となっている。また、我々の研究から従来言われてきた、毒素の毒性の発現に末端の芳香属カルボン酸の存在が不可欠であるとの知見が実証されつつある。今後、末端の芳香属カルボン酸を種々変更し活性と構造との関係を出来る限り明らかにし、痴呆症や虚血性疾患の研究に貢献しうる薬剤の開発に向けて努力を継続したい。
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