研究概要 |
ジョロウグモの毒腺から単離されたネフィラトキシン類(NPTXs)はアミノ酸とポリアミンから成る新しい型のペプチド様神経毒であり、グルタミン酸による神経筋興奮伝達を強力かつ特異的に遮断する事から、神経生理学の分野に於て極めて重要視されている化合物群である。本研究は、これらネフィラトキシン類の全合成を行なうと共に、化学合成によるクモ毒素の供給ルートを拓き、合せてより遮断活性の強い化合物の創製を目指して遂行されたものである。平成5年度は、インドール酢酸-アスパラギン-カダベリン-9-プロピルアミノプトレアニンから成るNPTX-8の最初の全合成を達成し、その合成ルートを確立することができた。また、D-アミノ酸を含むD-NPTX-8及びD-NPTX-12の合成にも成功し、これらの合成品のゴキブリに対する麻痺活性を詳しく調べることができた。その結果、興味深いことにD-アミノ酸を含むネフィラトキシン類もかなりの麻痺活性を有することが明らかになった。これらのクモ毒素の合成に於ても、当研究室で開発されたアジド中間体を用いるポリアミン部の導入法が、極めて有効であることが裏付けられる。なお、これらの成果はChemistry Letters,1993,pp 929-932に発表すると共に、日本薬学会113年会(大阪)、及び第10回ポリアミン研究会(東京)に於て口頭発表された。また、D-アミノ酸を含むD-NPTX-8及びD-NPTX-12の合成とゴキブリに対する麻痺活性については日本薬学会114年会(東京)において発表予定である。今回の合成と合せて、これまでにネフィラトキシンを代表する3つのタイプのクモ毒素の化学合成による供給ルートが拓かれたことになる。今後は、構造上もう一つタイプである6-ヒドロキシインドール核を有するネフィラトキシン類の合成に着手すると共に、末端の芳香族カルボン酸を種々変更し、活性と構造との関係について出来る限り明らかにしてゆきたい。
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