本研究では1.半導体レーザが有する自己混合効果や2.生体組織透過性に優れた近赤外光を応用した波長780nmの半導体レーザドップラ血流計の検討を行ってきた。本年度は主としてその生体への応用ならびに有効性について検討した。その結果、自己混合効果は、光吸収のある血球のような多重散乱体に対しても有効であることが示唆されたが、戻り光が弱いことにより自己混合効果の特徴の1つである高調波は得られず、S/N比を改善する必要性が示唆された。一方、モデル流路を用いた実験では血流速度として認識できる最高のシフト周波数(Fmax)は流路内の最高流速の約70%の速度成分を認識していることが示されたが、このFmaxとモデル流路の血流量との間に良好な相関があることから、このFmaxを検知することにより組織血流計として有効であることが示された。また、近赤外レーザドップラ法による癌腫部の血流は癌の増殖形態が異なる2種類の癌で明らかに異なる血流パターンが得られた。このことは生体浸透性の高い近赤外光によってより深い層の血流を高い時間、空間分解能で計測することが可能になって始めて評価されたものである。したがって、さらに本システムでもS/N比などを改善することによってシンプルでこのように高い分解能を有する血流計として有効になることが示唆された。また、近赤外光と細胞賦活剤との併用により、局所の免疫機能を高め癌などの悪性腫瘍の治療へも有効な結果が得られたことは、将来癌の免疫学的な治療と、その治療効果の診断が局所の血流計測から同時に行えるものであると考えられる。
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