病変発症部位の微小循環と高い時間・空間分解能で計測し、評価することは病変の診断・治療にとって極めて重要である。なぜならば癌のような血管新毛の盛んな病変では血流は増殖に伴って大きく変化し、癌の転移とも深い関係があること、心筋梗塞のような臓器の虚血性疾患では虚血部位が病変の部位を示し、手術後再潅流によって生じる血流パターンは術後の経過を予測できるものであるからである。このために近年レーザ・ドプラ血流計が応用され始めたが、本研究では1.半導体が有する自己混合効果や2.生体組織透過性に優れた近赤外光を利用するために波長780nmの半導体レーザ・ドプラ血流計の検討を行った。その結果、自己混合効果は光吸収のある血球のような多重散乱体に対しても有効であること、モデル流絡内の多くの速度ベクトルを有する流れに対しても最高シフト周波数を認識することによって生体組織内の血流計測への可能性が示された。特に周波数パターンの最高シフト周波数をF-V変換することが可能となれば自己混合効果によって計測プローベがシンプルになると共に、信号処理系のシンプル化を計ることができる。しかし、血流からの信号は自己混合効果の特徴でもあるドプラ信号の1コギリ波は見られず、このことから信号のS/N比を改善することが今後重要な問題点となることが窺われた。 一方、癌などの悪性腫瘍の血流パターンは細胞増殖の形態によって異なることや、癌の治療に伴って腫瘍の瘢痕化が進み血流が減少していくことなどから、光ファイバ付き半導体レーザの自己混合効果を利用すればこの様な生体局所の血流情報から癌の進行状況のモニタの可能性も示された。また、細胞賦活であるルミンとの伴用により癌の免疫学的な治療の可能性も示唆され、半導体レーザの診断・治療への応用性の高さが窺われた。
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