研究概要 |
近年,NOラジカルは,1マクロファージによる腫瘍殺傷因子としての作用,2血管内皮由来血管弛緩因子としての作用,3神経伝達物質としての作用など生体内における重要な生理活性物質であることが明らかになりつつある。本研究者らはこのNOラジカルの超高感度検出定量法の開発を目的として研究を開始した。その結果,ルミノール+過酸化水素系にNOラジカルを添加すると著しい発光が生じることを見出した。このシステム系による化学発光を原理として,生体内におけるNOラジカル量をフローシステムで検出する系を作製した。本検出法は従来のグリース反応系,オキシヘモグロビン系,GC-MS系,電極系にくらべ,操作法,感度の点において優れており,幅広い応用が考えられる。NOラジカルの体内における動的変化をリアルタイムで把握することは脈管疾患の病態機序解明の観点から医薬の分野において特に重要な研究課題となっている。そして血管内皮細胞や平滑筋などの脈管細胞の細胞機能に関して細胞間情報伝達物質として作用しており,新たなセカンドメッセンジャーと考えられている。この点からこのNOラジカルが生体において血圧制御物質としてどのように機能しているか,全身性の制御物質か否かなど,NOラジカル量と血圧との相関を解明できるようになったことは意義深い。現在までに本検出系の検出限界が10^<-15>moleのオーダーであること,化学発光の機構としてNOラジカルと過酸化水素が反応したN(O)OOが重要であること,単離臓器を用いたフロー系に応用できることを明らかにした。特に腎臓を用いて,かん流液中にアセチルコリン(10^<-9>〜10^<-7>M)を添加し,それによるNOラジカル量とかん流圧の関係,NOラジカル合成酵素阻害剤であるN-メチルアルギニンの効果など興味ある知見を得た。次年度はさらに病態モデル動物などを用い,NOラジカルの作用解明を行う予定である。
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