研究概要 |
近年,一酸化窒素(NO)は血管内皮細胞,神経細胞および免疫担当細胞のそれぞれの機能に関して新たなセカンドメッセンジャーとして注目されてきている。本試験研究は半減期が6秒と不安定なこのNOを高感度で測定する装置の開発とそれを生体系へ応用することを目的としている。 血管においては血管内皮細胞から生成したNOは平滑筋に作用し,これを弛緩させ,血圧を下げる作用を示すことが分かってきた。この作用は主にNOが平滑筋のグアニレートサイクレースのヘムに反応しcGMP量を上昇させることによる。しかし,NOは生理的条件下、酸素により容易に酸化される。この不安定さと低濃度での放出のためNOをリアルタイムで測定することは困難で,電極法など特殊なもの以外,汎用性のある方法はいまだない。このため多くの研究ではNOの作用の解析をNO合成酵素阻害剤に頼っているのが現状である。このNOの生体における情報伝達物質としての特質を明らかにするために,その動的変化を把握することが,循環器および中枢系における重要課題である。 このような背景のもとに,今回本試験研究によりNOを高感度で測定・定量する方法を開発した。この方法はNOがluminol+H_2O_2系により強い化学発光を引き起こすことを原理としており,1pMの高感度でNOを検出することができる。本系を単離腎臓の潅流系に応用し,アセチルコリン,ブラジキニン,ヒスタミンなどの血管作動性物質に対する潅流液中に放出されるNO量をそれぞれの濃度変化に応じて,定量することが可能となった。本測定系が内皮細胞から生じるNOを特異的に測定していることを各種コントロール実験から確かなものとした。そして標準NO液を用いて,アセチルコリン投与時の血管内皮細胞で産生しているNO量を外挿法により求めた。 ここで得られた結果はNOの生理学的意義を知る上から重要な知見と考えられる。
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