研究概要 |
アクリルアミド(AC)は神経毒であって,これを哺乳動物へ長期間投与すると中枢・末梢遠位軸索症を誘発する.この神経病変を超微形態学的に観察すると傍ランビエの絞輪部にニューロフィラメント(NF)の蓄積がみられる.よって,ACを正常なウズラとNF欠損ウズラ(Quv)に投与し,中枢ならびに末梢神経の変化を比較した. 先ず,ACを投与した正常ウズラの中枢神経では,遠位軸索症が脊髄小脳路(側索)および前庭脊髄路(腹索)に誘発された.この病変の超微形態学では,脊髄神経の軸索内にNFの蓄積が認められた.一方,ACを投与したQuvウズラの中枢神経では,脊髄小脳路および前庭脊髄路には病変は観察されなかったが,小脳の髄質から顆粒層に軽度の軸索腫大が見られ,超微形態学的には神経線維の軸索に膜性小器官の蓄積がみられ,NFは認められなかった.要するに,ACはNFと関係なく膜性小器官を蓄積させるものと解された. 次に,ACを投与した正常ならびにQuvウズラの末梢神経(坐骨・脛骨神経)では,両者とも逆行性に進行する軸索変性を引き起こした.超微形態学的には,有髄神経の軸索内に,正常ウズラではNFの蓄積が,QuvウズラでNFはなく,膜性小器官の蓄積が観察された.さらに,正常ウズラでウォーラー変性と同一の変化が認められたが,Quvウズラではその変化は観察されなかった.このように,末梢神経においてもACにより病変が誘発されたが,NFが存在するか否かにより病像に差異が認められた. Quvウズラを用いたこのような実験的比較研究は,NFと薬物の作用機序との関連性をはじめ,NFと他の細胞小器官との相互作用,さらに,神経線維の変性過程におけるNFの関与を探るうえで意義深く,有用なモデル動物になると考えられる.
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