研究概要 |
本試験研究で試作,開発を行ったパルス照射型高エネルギー粒子発生装置は,現有設備のタンデム質量分析計(JMS-HX221CP)に装着し,動作並びに性能の評価を行い,フォトダイオードアレイ型検出器を備えた磁場型質量分析計,または,タンデム質量分析計で使用できることを確認した.装置の最も大きな利点は,その高いイオン化効率(生成イオン量/試料量)と測定時間内に消費される試料のロスが非常に少ない点にある.すなわち,本装置は,イオン化効率において,従来の高速原子照射(FAB)イオン化法に比べ10倍以上高く,フェムトモルオーダーの高感度検出が可能となり,また,数十ミリ秒単位でイオンの取り込みを行うアレイ型高感度検出器と完全に同期して断続的に動作するよう設計されているので,従来の連続イオン化に比較して試料のロスが少なく,生成イオンを殆ど漏れなく検出できる. 試作装置は,主に,パルスを発生させる部分,パルスに応じ高速に高電圧をオン,オフできる電源,そして,高エネルギー粒子を発生するイオン銃,試料分子をイオン化するイオン源ブロックからなり,フォトダイオードアレイ型検出器及び質量分析計と同期して動作する.また,試作装置は,切り換えスウィッチで簡単にタンデム質量分析計の第一,第二質量分析計に接続でき,前者では,直接構造情報を与えるフラグメントイオンの測定,後者では分子イオンの測定が行える.本装置の最も大きな特長は,イオン銃に印加する高電圧(3000V)のオン,オフにより,一次イオンのパルス照射を行う点で,この新方式により初めて精度よいパルス照射が可能となり,パルスイオン化法の確立と実用化に多大な貢献があるものと思われる.また,本装置は,現在,生体物質の質量分析に最も頻繁に用いられているFABイオン化法にも適用でき,技術的,経済的にも普及することが期待される. 最終的に,本試作装置を装着した質量分析計を用いて,ヒト血液から得られた微量糖蛋白質(血液凝固因子)の糖鎖構造解析を行い,本装置の最終評価を行った.その結果,一般にイオン化効率が非常に悪い糖ペプチドにおいても,構造解析に十分なプリカーサー及びフラグメントイオンを観測することができ,それにより,血液凝固因子における新規な糖鎖構造を決定することができた.
|