メダカ特定座位法の開発に着手して以来10年間にわたり蓄積してきたデータは、1995年2月8日までに胚数にして872、961個、遺伝子数にして2、299、892個に達した。これら膨大なデーターを基盤にしたメダカ生殖細胞変異実験系は、これまでにない高感度多重遺伝影響検出系であることが明らかになった。 1.3標識遺伝子座を持つテスターメダカの近交系化のための兄弟交配を継続した結果、平成6年度の半ばに兄妹交配20世紀を越えることができた。これにより、3標識テスターメダカの近交系が確立され、この系統をメダカ近交系AA2系統と命名した。 2.対照群では195、554個の胚、遺伝子座数にして501、917個を調べた。発生途中での胚死は10、901個であったので、自然優性致死率は5.6%となった。また自然総突然変異率、自然生存突然変異率はそれぞれ3.8x10^<-5>および4.2x10^<-6>となった。 3.メダカ生殖細胞変異実験系では遺伝指標として、優性致死突然変異、総突然変異、生存突然変異及び外部奇形の合計4つを、一つの実験系に多重に取り込むことに成功した。 4.それぞれの遺伝指標は、ガンマー線や速中性子線のような放射線に対しては、明確な線量-効果関係を示した。しかも、総突然変異が優性致死を伴う割合は、雄生殖細胞の分化段階によらず一定であり、総突然変異の約10%が生存突然変異になった。一方ENUにおいては、精子/精細胞期暴露では放射線とほぼ同様の結果が得られたが、精原細胞期暴露ではENU濃度により極めて対照的な結果が得られた。このことは、特に化学物質の遺伝毒性を調べるに当たっては、濃度-効果関係を細かく調べる必要があることを明確に示している。
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