研究課題/領域番号 |
04559005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小久保 正 京都大学, 工学部, 教授 (30027049)
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研究分担者 |
海老澤 幸弘 住友金属工業(株), 開発部, 研究員
平岡 真寛 京都大学, 医学部, 助教授 (70173218)
山田 公 京都大学, 工学部, 教授 (00026048)
八尾 健 京都大学, 工学部, 助教授 (50115953)
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キーワード | 放射線療法 / イオン注入 / リン / シリカガラス / 癌 / 化学的耐久性 / ラザフォード後方散乱法 / フーリエ変換赤外スペクトル |
研究概要 |
1.研究目的: 化学的に安定なシリカガラスの直径20〜30μmの球粒子にリンをイオン注入すると、表面層に多量のリンを入れることができ、中性子照射により、リンのみが放射化されて半減期14.3dのβ線のみを放射する^<32>Pに変換する。この球粒子を血管内に通したカテーテルにより腫瘍部に注入すると、腫瘍部の毛細血管に留まり、患部を直接放射線照射する。β線はその到達距離が短いため、健康な組織まで照射することがない。本研究は、このような癌治療に適したリン注入ガラス、すなわち表面付近に多量のリンを含みしかも体内でリンを溶出し難いガラスを得る条件を明らかにすることを目的とする。 2.研究成果: 高純度シリカガラスの板状試料に、加速電圧20KeVで種々の量のP^+イオンを照射すると、1X10^<16>cm^<-2>迄は照射量と共にガラス中へのイオン注入量が増加するが、それ以上照射してもガラス中への注入量が増加しないことがラザフォード後方散乱(RBS)スペクトルからわかった。P^+イオンを注入しただけのシリカガラスは95℃の温水中にかなりの量のSi及びPを溶出した。これはP^+イオンの注入により、ガラスの表面構造が損傷を受けたためであることが、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルからわかった。P^+イオン注入シリカガラスを900℃で加熱処理するとSi及びPの溶出量が減少したが、これはシリカガラス表面の構造損傷が癒されただけでなく、加熱処理中にP^+イオンのかなりの部分が昇華点(416℃)以上で昇華逃散したためであることがRBSとFT-IRからわかった。X線光電子(XPS)スペクトルによれば、ガラス中に注入しただけのP^+イオンはコロイドの形をとっていた。そこで、先ずP^+イオン注入ガラスを還元性の水素ガス雰囲気中で400℃で1時間加熱すると、リンコロイドが大きく成長することがXPSにより確かめられた。次いでこれを酸化性の酸素ガス雰囲気中で900℃で2時間加熱処理すると、リンをほとんど昇華逃散させることなく、シリカガラス表面の構造損傷を癒さすことができることが、RBS、XPS及びFT-IRスペクトルにより確かめられた。この2段階加熱処理ガラスは温水中にほとんどSiもPも溶出しないことが、ガラスのRBSスペクトル及び温水の高周波誘導結合プラズマ発光分析により確かめられた。よって、この方法により、癌の放射線治療に適したガラスが得られると考えられる。
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