研究の目的は、古代初期原子論が、ヘレニズム期の自然哲学のみならず、諸学芸・技術などに与えた影響について、とりわけエピクロスならびにエピクロス学派や、それを継承した思想を中心に文献学的に調査吟味することにあった。その目的を達成する意図のもとに、研究の初年度は、古代初期原子論者デモクリトスの原子思想における神観との対比という点でエピクロスの神観を扱った。もとよりこの研究は、残されたエピクロスの書翰だけでなく、彼の思想に関する断片の検討を必要としている。その研究の成果は、「エピクロスの神観-2種類の神々をめぐって-」として公表した。 先ずエピクロスの「主要教説」とキケロの『神の本性論』の記述との関連を考察し、エピクロスの神観の真相を明らかにしようとした。その考察の焦点は彼のエイドーラ論と密接に繋がっていることから、エイドーラと神々との関係を文献学的に調査した。その結果、エピクロスは、エイドーラの原型として中間世界に住む非物体的な神々と、それから発出してくるエイドーラ神との両方の神を認めたと推定した。ただし、いずれの神々の実質も原子からなるものである。従ってエピクロスの神々は構造的に同じであるが、一次的な源としての神と、二次的に派生した神との両面が考えられたことによって、デモクリトスの神観とは異なった把握をしたことが明らかになった。 さらにエピクロス思想全般の文献資料として、新しく発見されたパピルスなどの資料を加えたArrighetti編篇の断片研究に着手し、エピクロスの『自然について』の第4巻までの試訳を示した。そこにおいてエイドーラについての彼の考えの一端が明らかになったが、この検討はかなりの年月を要するものと思われる。
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