前年度に導入したコンピュータ関連機器(NEC製パーソナルコンピュータPC9801FA、ディスプレイPCKD1511、イメージスキャナーPCIN503Gなど)及び文字認識ソフト(東京テックメイト「採字張」)を活用して、明末清初の経書解釈に見える経世論についてデータベース化を進め、まず、王夫之『船山遺書』の中から『俟解』『思問録内篇』『思問録外篇』をデータベース化した。そして、王夫之の四書解釈が示されている『読四書大全説』を中心に考察を加え、論文「王夫之『読四書大全説』-『集注』支持と『集註大全』批判-」(松川健二編『論語の思想史』汲古書院、平成6年2月刊)を作成し、王夫之が道徳的修養を重視する視点から朱熹『論語集注』を支持して、道徳的修養を軽視する傾向のある注釈を多数収録した『論語集註大全』を批判したことを明らかにした。次いで、李贄『李温陵集』を中心資料として李贄の経書解釈について考察し、論文「李贄『李温陵集』と『論語』-王学左派の道学批判-」(同上『論語の思想史』)を作成し、李贄が民生の安定を眼目とする政治的視点から朱子学の道徳至上主義および当時の官僚社会の偽善性を告発したことを明らかにした。更に、林兆恩『林子全集』を資料として林兆恩の経書解釈に見える経世論について研究し、論文「林兆恩『四書標摘正義』-三教合一論者の「心即仁」-」(同上『論語の思想史』)を作成し、林兆恩の三教合一論の主張が宗教思想によって体制内融和を目指すものであったことを明らかにした。最後に、李贄の経世思想について報告書を作成し、李贄の生涯に沿って通時的に経世論を跡づけた上で、従来の評価の問題点を考察し、李贄の階級的立場が基本的には、東林派と共通するものであることを示した。なお、報告書の印刷費が、本年度の補助金額の三分の一を占めたため、新たな研究資料の収集作業が余り進展しなかった点が、反省される。
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