今年度の成果としては、まず第一に『サートヴァタ・サンヒター』の英訳を完了したことである。これによりこのテキストの全体が把握され、さらにヒンドゥータントリズムの概容が明らかにされた。また主題による分類をすれば、今年度は特に「入門儀礼」を主たるtopicに選定した。この成果は、「sad-adhvanについて」(『印度学仏教学研究』第42巻第1号)、さらには、「diksaとabhiseka」(『仏教学』第35号)に発表した。 これらの論文では、既に西洋に於ける研究書を用いて、シヴァ教とこのパーンチャラートラ派の儀礼やその背後にある思想の異同を比較分析した。シヴァ教における研究はこの十数年目ざましい進歩を遂げているが、一方パーンチャラートラ派のそれはごく少数の限られた研究しかなされていない。本研究者は、ヒンドゥータントリズムは用いるタントラ、や尊拝する神に異なりがあるものの、儀礼の構造には大差がないのではないか、という仮定のもとに研究を進めており、今回の論文にもこの仮定に基くものである。近い将来このテキストを中心にしてこれらの比較研究の成果をまとめる予定でいる。
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