1.研究経過概要 本研究は儀礼と声明譜の二方向から行った。まず儀礼に関しては薬師寺の儀礼の変遷を整理し、そして薬師寺の儀礼と共通する南都仏教諸宗・真言宗の儀礼を比較し、相互関を考察した。またそれらの儀礼の背景にある密教的性格を薬師寺経蔵の文献から探った。声明譜に関しては唯一の刊本とみられる『法相宗三時課誦』(明治37年刊)記載の博士、および法隆寺・東大寺、そして天台・真言の声明譜と比較分析し、形態および高音の面から薬師寺声明の音楽的特質を探った。 2.研究成果 現行の儀礼では修二会・慈恩会がより古い形を保存するものであり、その他の祖霊供養や祈願のための儀礼はそれらよりも新しい構成であり、儀礼の構造も単純化されている。前者はいわば僧侶自身のための儀礼であり、後者は他者のための儀礼である。このことが両者の儀礼の伝承の相違となっていると思われる。声明に関しては四箇法要など通宗派的な曲の譜はその他の声明流派とかなり共通していること、また悔過など寺単位でおこなうものに関しては、各々の寺で独自性を作り上げていることが明らかになった。『法相宗三時課誦』の譜に関しては、江戸以前のいずれかの時期に、それ以前の声明譜が多少単純化されて作られたものと推定した。薬師寺蔵の法相宗固有の声明関係文献は極めて少なく、薬師寺の資料のみで研究は継続することに限界があり、今後は少なくとも法隆寺・興福寺へ調査対象を拡げていくことが必至である。
|