国立大学付属幼稚園の年少、年中、年長児および国立大学付属小学校1年生を対象とした、本年度収集した資料の分析と過年度収集資料の再分析によって、以下の知見が得られた。 1.自己認識の獲得手段としての社会的比較の相対的重要性の年齢変化:Schoeneman et al.(1983)に準拠した方法を用い、(1)社会的比較、(2)社会的フィードバック、(3)自己観察、のいずれの手段が利用されやすいかを検討したところ、自己観察が用いられる割合が圧倒的に高く、年齢間の差異は見られなかった。併し乍ら、測定方法の妥当性に若干の疑問が残されており、明確な結論を下すことはなお時期尚早と思われる。 2.社会的比較の頻度と機能の年齢変化:Verlof(1969)による技法を用いた測定によれば、社会的比較の頻度は幼稚園年少児から小学校1年生にかけて、一貫した増大傾向が見られた。この技法は、社会的比較を通じた競争的達成機能、すなわち社会的比較の自己高揚機能を主に反映していると思われる。一方、行動観察のVTR分析によれば、幼稚園児の日常行動に反映された社会的比較の機能は広範囲に及ぶが、(1)前述した自己高揚機能、および(2)自他の類似性の確認を通じた自己融合機能が目だち、後者は特に年少児に顕著であった。 3.自己認識のあり方と社会的比較との関係:自己認識の局面としてコンピテンスを取り上げ、Harter(1984)の尺度を用いた面接調査と、行動観察のVTR分析の双方によって測定を行なった。両者の間には一定程度の相関関係が認められ、また、コンピテンスの尺度値と社会的比較の自己高揚機能との間にも相関関係が見られたが、詳細な分析検討はなお続行中である。
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