研究概要 |
1.初心者が一輪車走行スキルを習得するプロセスを実験的に追跡した結果,以下の所見を得た.(1)学習速度の個人差はあるものの,10日以内で連続走行が可能になる.(2)飛躍的な走行時間の上昇が認められ,スキル習得は段階的に推移する.(3)各段階に特徴的な認知過程が存在する.(4)スキル習得の背後に無駄な力を抜こうとするリラクセィション方略が存在する. 2.10秒以上の走行が可能になった学習者10名と,すでに一輪車走行に習得している小・中学生7名を対象に,走行時の大腿四頭筋筋電図,関節角度をテレメータ測定し,かつ認知的方略を聴取した結果,以下の所見を得た.(1)筋電図に現れる両群のもっとも大きな差異は,相反性の緊張パタン(左右の大腿四頭筋筋電図が,一側が放電している時に反対側は休止する)が熟達群に顕著に認められた.10秒以上の走行が可能になった学習者も,ミクロな反応レベルで見ると,熟練した学習者とは異なった筋緊張パターンを示すことが明らかにされた.(2)熟達者の内省報告は,初心者それと比較して,量的にも,質的にも乏しく,正確に走行時の自分自身の状態を報告することができないという特徴が認められた.これは,熟達者は自動的な走行が可能になり,走行時の姿勢や動作について意識していないことによるのか,あるいは言語的表出能力が低いために認められたことなのかを今後検討する必要がある.以上の一輪車走行技能についての検討と平行して,野口体操を行っているときの,関節角度変化から関節のトルク(抵抗値)を推定する方法を開発し,それと筋電図変化との対応を検討した.測定関節を肩,肘,手と増やせば,角度変化から筋緊張パターンを推定することは可能なことが確認された.運動スキル習得の背後にリラクセィション方略の存在が示されたことから,両スキルの習得過程の類似性が示唆されたと考えられる.
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