研究概要 |
本研究の目的は,広島と長崎の原爆子宮内被曝に関するヒト疫学調査に対応した基礎的研究として,子宮内被曝がラットの生後における行動と環境への適応に及ぼす影響について検討することである。被験体としてフィシャー系(F344/Du Crj)ラットを用い,交配の翌朝に膣栓が認められた雌を妊娠0日とした。妊娠15日に^<60>C γ線,27,48,146radを1回全身照射した。その後,自然分娩の認められた日を出生0日に定めたが、出生仔数等が調整しなかった。なお,生後21日に離乳させた。 生後5日から離乳日まで,(1)広場事態における定位ないし指向運動,(2)斜面板上での背地走性,生後12日から離乳日まで(3)ロープ降り,(4)高架式直線走路での走行を,それぞれ1日1回ずつ観察した。なお,高線量(146rad)照射群は離乳日までに(成熟した正常ラットが示すロープ降り及び高架式直線走路での走行を示なかったので、高線量照射群のみ生後28日と35日にさらに行動察を行った。 平面である広場事態における146照射群のcreepingとwalkingは対照群(0rad)よりも早く出現した一方,斜面である背地走性事態におけるそれらは対照群よりも遅く出現した。また,高線量照射群は斜面板をころげ落ちずにすべり落ちることが多かった。さらに,前述したように,頭を下にしたロープ降りや高架式直線走路での歩行は(生後21日まで)観察できなかった。すなわち,高線量照射群での四肢移動形態の障害は,負荷のかせられた観察場面で顕著に観察できることが明らかになった。しかし、離乳後の行動観察によって、成熟した正常ラットが示す行動パターンが観察できたことから,四肢移動形態の障害は永続的なものでなく,発達に伴って修復されうるものであることが示唆された。
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