本研究は、胎児の記憶と新生児の学習可能性、及び母子関係形成との関係を検討するために、一連の実験として計画されたものである。本年度は、Slc:ICRマウスの新生児(出生後2日齢)を用い、母親の乳首への選好テスト、生理食塩水への選好テスト、羊水への選好テストを行なった。母親の乳首への選好テストとは、母親から新生児を2時間隔離し、母親を麻酔した後、新生児を母親の乳首の前に置き、新生児がどの乳首をくわえて吸乳するかを調べるものである。テストの結果、新生児には乳首選好の偏りがほとんどみられないことが明らかとなった。生理食塩水への選好テストでは、麻酔後の母親の乳首(胸部あるいは腹部)に生理食塩水を塗布し、新生児がどちらの側の乳首をくわえて吸乳するかを調べるものである。その結果、新生児は生理食塩水への選好をもたないことが分かった。羊水への選好テストとは、麻酔後の母親の乳首に羊水(あらかじめ別の雌を妊娠させて採取したもの)を塗布し、新生児がどちら側の乳首をくわえて吸乳するかを調べるものである。テストの結果、新生児は母親の羊水がついた乳首の方を、より多く選好することが明らかとなった。これらの実験は、1日齢と5日齢の新生児についても実施させたが、いずれの日齢でも乳首への選好を検討することはできなかった。その理由は、1日齢の新生児の身体運動が、この選好テストを実施できるほどには発達していなかったこと、また、5日齢の新生児の身体運動は非常に活発で、母親に乳首に向かって移動するよりも周囲を探索することが多かったためである。 本研究では、唾液での選好テストと弁別テストを計画しており、現在実験中である。ただし、唾液の蒸発が早いために大量の唾液を母親からあらかじめ採取しておかねばならず、この点が実験の実施を困難にさせている。
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