本研究は、胎児の記憶と新生児の学習可能性、及び母子関係形成との関係を検討するために、一連の実験として計画されたものである。本年度は、昨年度の実験を補充し、さらに、Slc:ICRの新生児(出生後2日齢)を用い、新生児が自分の母親の方を他の母親よりも選好するか否かを、選好テストによって検討した。母親の選好テストとは、母親から新生児を2時間隔離し、新生児自身の母親と他の母親を麻酔した後、両方の母親の間に新生児を置き、どちらの母親の乳首を新生児がくわえて吸乳するかを調べるものである。テストの結果、多くの新生児は自分の母親の方を選択することが明らかになった。また、テストを繰り返すと他の母親も選択するようになった。乳首を選択するまでの潜時は、テストを繰り返すと減少した。これらの結果から、最初のテスト場面では新生児は両方の母親の刺激特性を区別していること、このテスト場面に慣れると両方の母親の刺激特性を気にしなくなることが明かとなった。 マウスの新生児は、母親の持つ様々な特性によって母親へと引きつけられる。これは、晩熟性の哺乳類として、出生直後からの親の関与無しには新生児が生存できないということに由来し、必然的に固定化された仕組みだと考えられる。本実験では、母親の刺激特性の何が新生児を引きつけるのかについては明らかにできなかったが、母親のにおいが最も可能性としては大であろう。
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