本研究は、胎児の記憶と学習可能性、及び母子関係形成との関係を検討するために、一連の実験として計画されたものである。 用いた被験体はSlc:ICRマウスの新生児(出生後2日齢)であり、嗅覚刺激を塗布した母親の乳首への選好テスト 母親の選好テストを行った。嗅覚刺激を塗布した母親の乳首への選好テストとは、新生児を母親から3時間隔離して空腹状態に置き、母親をネニブタールで麻酔した後、新生児を母親の乳首の前に置き、新生児がどの乳首をくわえて吸乳するかを調べるものである。また母親の選好テストとは、新生児を3時間隔離し、新生児自身の母親と他の母親を同時に麻酔した後、新生児がどちらの母親の乳首をくわえて吸乳するかを調べるものである。 テストの結果、新生児は羊水を塗布した母親の乳首へすみやかに接近し乳首を選好することが明らかとなった。さらに、多くの新生児は、自分の母親の方を他の母親よりも選択した。これらの結果は、出生後2日齢の新生児が、母胎内で胎児期に経験した羊水の刺激特性を記憶していること、その記憶に基づいて母親の乳首を選択すること、新生児は自分の母親の刺激特性(出生後知覚した刺激の特性)を記憶していることを示している。 新生児は、母親の持つ種々の特性によって母親へと引きつけられる。これは、晩熟性の哺乳類として、出生直後からの親の関与なしには生存できないということに由来する、必然的に固定化された仕くみであり、母子関係形成の基礎となるものだと考えられる。
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