当初の研究実施計画のとおり、社会的表象に関し、以下の3点について研究を行なった。 1.数理モデルによるシミュレーション:Weidlich & Haagによって提出された世論形成モデルを拡張し、社会的表象の量化可能な次元が、個人の確率的状態変化と相互規定関係を保ちつつ変動する場合、いかなる確率変動をするかを表現する微分方程式を導出し、その数値解を求めた。その結果、個々人が一律に社会的表象から受ける影響が大きい場合、および、社会的表象の形成に突出した影響力を有する個人が存在する場合には、確率過程に分枝が生じることが見出された。 2.観察・実験法の開発:すでに集団や社会に存在している社会的表象の一つとして、(社会的表象としての)メンタル・マップを定量的に測定する手法の開発を試みた。特定地域について、長年の居住者、新規居住者、非居住者のメンタル・マップをかなり明瞭に識別できる測定手法が開発されつつある。居住期間が長くなるにつれて、メンタル・マップがどのように変容するかという点についても検討中である。 3.宗教に関わる社会的表象の研究:日本在住のイスラム教徒と日本人の双方から、宗教意識に関するデータを収集し、それぞれが、宗教に関していかなる社会的表象を有しているかを比較検討した。とくに、イスラム教徒の日本社会への適応を妨げる要因を、双方の社会的表象の違いの中に求めるとともに、日本に在住する過程で、イスラム教徒の社会的表象がどのように変容していくかについても検討した。
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