3次元物体のスリット視がなぜ可能かという問題に答えるためには、そもそもなぜスリット視においては物体が伸びて見えたり縮んで見えたりするのかという、Helmholtz以来の問題にある程度以上、解答を与えておく必要があった。本年度に行った実験によって、この根本的問題にたいする手がかりがえられたので、まずこの問題を理論的に解明しようとつとめ、現時点で、ほぼ満足のいく理論の構築に成功した。すなわち鋭角の過大視によって引き起こされる運動速度の過大視、スリットの両端付近を通過するさいの運動速度の過小視のふたつの要因によってスリット視における伸縮が説明できた。これは3次元物体のスリット視の研究という当初の計画からすれば、まだ問題の解決にはいたっていないといえるが、スリット視の研究史のなかでは、おそらく画期的な研究という評価をえるものである。 この理論によってまた、3次元物体のスリット視の計算理論的側面の見通しもよくなった。そのおかげで、スリット視状況における3次元物体の構造復元にもスリット視固有の問題をうまくとらえたStructure‐from‐Motionの理論をたてることができた。またこれは運動視差からどのように奥行きが復元できるかをも説明できるので、理論的にはスリット視にとどまらず、広く運動視全般に適用できる可能性をもつ。まだどういう場合に3次元物体のスリット視が可能であり、どういう場合に不可能かという分類には成功していないが、本年度に得た2つの理論を用いてさらに研究をつづける予定である。
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