3件の調査を実施した。経過、主要な知見は以下の通りである。 1.自己概念と適応の指標としての孤独感を大学生男女、40〜50歳代の女性を対象として調査した。予備的調査の結果は、社会性をもった概念によって自己を定位することが自己同一性の確立上必要であることが示唆され、この事実は、理論的にも重要な問題であること、例えば、いわゆる血液型性格関連説を巡る心理学者のこれまでの接近に欠落していた、多くの人々が如何なる理由で、血液型性格関連説に関心を示すかの社会心理学的問題への回答が示唆されるなど、巨視的社会現象を理解する手掛かりとなるものと思われる。 2.社会性をもった自己概念の性質を明らかにするための調査を男女大学生および40〜50歳代の女性を対象として実施した。孤独感を指標としたいわゆる自己同一性の確立のためには、職業、公式的な所属集団との関係等で、自己を定位できることが重要であることを示唆する結果を得、従来の自己概念研究が私的レベルでの自己概念にのみ注目していたことの問題が示唆された。 3.人文系の研究者集団の共同研究グループ構成の原理が、1950年代以降、私的レベルの自己概念の基礎となる属性(私的親密さなど)を基礎とする傾向が見らるようになった時期があること、これはいわゆる日本社会の大衆社会化現象を示すと同時に、最近においてはこれに逆行する傾向も見られること、これが自己同一性の拠所としての社会性をもった概念による自己定位への欲求と関係することが示唆され、社会心理現象の個体内過程-社会過程という微視的現象と巨視的現象を関連づける理論構成への手掛りが得られた。
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