近年、日本はかつてないほど異文化の人々を迎えている。その変化は幼児教育の場にも影響を及ぼし、異文化からの幼児が、保育園、幼稚園に在籍するのは珍しいことではない。本研究は、このような幼児の保育集団における異文化接触経験が、日本児や異文化児の発達にどのような影響を及ぼすかを検討した。主要な目的は、 1、異文化から来た子どもと、クラスの仲間の日本児との仲間関係を、会話やコミュニケーション行動の分析によって明らかにする。 2、日本児における社会的認知能力の発達として、人種差、文化差の把握や、メタ言語的能力の発達を調べる。 このような目的の達成のために、多角的な方法を用いた。対象地域として、異文化児の存在の意味は地域によって異なると思われたため、それぞれ都市と農村の典型的性質を持つと予想された、東京と山形の2地域で、計8園の11クラスで調べた。長期縦断観察、子どもや保母、母親へのインタビューや質問紙を繰り返し行った。 結果は、異文化児はクラスの中で中程度の位地におり、友達には人気者ではなく自己と同レベルの日本児を選択するほか、友人関係の維持のためにさまざまな方略をとることがわかった。異文化児の在籍の有無が与える日本児への影響を検討すると、人種、国民性などの理解に比べ、言語差の把握において、異文化児との接触経験が理解を促進することがわかった。ただし、言語名の知識は英語以外には殆どなく、異文化児の未熟な日本語を認知することだけが可能であった。子どものこのような社会的認知の知識や態度には、主に保母を中心とするまわりの大人の影響がある。保母や両親の観点も分析し、教育的合意を検討した。今後小学校迄まで大し、異文化児を巡るクラス外のネットワークも含めた分析を行い、現代日本における異文化児の存在の与える影響と意味を検討したい。
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