本研究では、その第1段階として、研究分担者の所属する神奈川県総合リハビリテーションセンターに所属する更正施設に収容されている自関的傾向のある中程度から重度の青年期精神遅滞者を対象として、就職前指導の一環として社会的スキル訓練(SST)が実施された。就職してからの適応した生活を送ることができることをSSTの狙いとし、(1)適切なコミュニケーションを維持するために相手に如何に注意を向け応答すればよいか(対人的注意の振り分け)、(2)社会的分脈に応じた感情表現を如何に形成すればよいか、という2点に着目し、それらの反応の形成を目的としたSSTプログラムを実施した。トレーニング場面は、ルールに従った行動が要求されるカードゲーム場面、集団内での役割行動、および机を運ぶといった共同作業場面であり、それらの場面の中で上記のスキルの形成を試みた。 6ヶ月にわたる合計23セッションのSSTの結果、(1)課題に関連した適切な発語の増加、(2)自己刺激行動の減少、(3)コミュニケーションの維持および共同作業の遂行に必要な手がかりに適切に注意を向ける行動の増加、(4)適切な感情表現をともなった応答行動の増加、(5)タイミングを合わせた共同作業の頻度の増加といった行動の変客が認められた。 研究の第2段階では、既にSSTを受け更正施設を退所し就職した精神遅滞者3名を対象をして、SSTによって獲得された行動がどのように般化しているかを明らかにするための面接調査が行われた。 以上の結果にもとづいて、コミュニケーション相手から与えられる手がかりに適切に注意を振り分けるという弁別行動の形成に及ぼすSSTの効果が検討されるとともに、社会に出てからの適応の改善(SSTによって形成された行動の般化)の問題が議論された。また、それらの結果にもとづいて、現在SSTマニュアルを検討整理中である。
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