1.日本語の3表記形態(漢字・ひらがな・カタカナ)の主観的表記頻度の標準的資料作成のための調査を行なった。材料は750語の名詞と代名詞。各語を漢字、ひらがな、カタカナで表記し、各表記を日常生活で目にする度合を3段階で、大学生に評定させた。この際、評定の信頼性を調べる手続も導入した。よく見るという段階の評定について集計したところ、(1)評定に信頼性のあることが分かった。(2)主観的表記頻度に従って、各語を漢字型・ひらがな型・カタカナ型等、10種類に分類することができた。(3)語としての出現頻度の高い語には、漢字で表記されやすい語(漢字型、漢字優位型等)の多いことが分かった。 2.主観的表記頻度の認知的妥当性を見るため、以下の研究を行なった。(1)表記型が単語の音読潜時と再認記憶に及ぼす影響を大学生を用いて調べたところ、(1)音読潜時は、ひらがな表記では表記型間に差はなかったが、漢字型、漢字・ひらがな型では、漢字表記でも、ひらがな表記と同じレベルであった。(2)偶発再認記憶は、一般に漢字表記で提示した場合、ひらがな提示よりも成績がよかった。(2)表記型がアナグラム解決課題に及ぼす効果をみるため、漢字型、ひらがな型、カタカナ型の語を、それぞれ、ひらがな表記とカタカナ表記してアナグラムを作成し、大学生に解決させたところ、(1)漢字型は他の二つの型よりも解決しにくかった。(2)ひらがな型はひらがな表記の場合に、カタカナ型はカタカナ表記の場合に、それぞれ、その逆の場合よりも解決しやすかった。(3)俳句の季語の部分を3種の表記で提示し、俳句全体の印象をSD法で大学生に評価させたところ、ひらがな表記の場合、漢字やカタカナ表記の場合にくらべて、異なった評価をしていることが分かった。
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