本年度は昨年度に引き続き、百貨店の雇用管理システムに関する企業ヒアリングと、女性労働および労働社会学関連の文献サーヴェイを続行した。本年度の本格的な取り組みとしては、女性労働者の全体像に関するマクロなデータの分析をまず行い、次いで本研究の中心的課題であった百貨店の労働実態についてのインテンシィヴな実態調査を実施したことに求められる。この実態調査にあたっては、当該業界のなかでも女性労働者政策がもっとも進んでいると位置づけられるA百貨店を選定した。A百貨店の協力のもとで、百貨店における典型的職場事例として婦人服売り場におけるひとつのショップのほぼ全数のケースに面接調査を実施した。ショップの長をはじめとする職制の男女(男性は全員大卒、女性は全員高卒ないし専門学校卒)、および役職のない一般職の女性(短大もしくは高卒で20歳代前半から30歳代)を網羅するケーススタディを行うことができた。以上の他、百貨店労働における隠れた主役が正社員ではない「取引先販売員」であることが調査の過程で明かとなったため、同じ職場に派遣されているこの販売員の人々(全員女性)の面接調査も追加した。したがって同一職場で働く男女を含む全階層を網羅したモノグラフとして精度の高い調査が可能となったため、百貨店の女性労働者をとりまく職場環境を総合的な視点から解明することが可能となったと言えよう。なおこの職場には大卒女性が配属されていなかったため、婦人服売り場の中の他のショップの大卒女性についての面接調査も行った。調査は労働実態を中心の面接調査と、余暇生活についてのアンケート調査の二段階で行ったので、労働を軸とするトータルな生活像および生活価値を浮き彫りにすることができよう。この成果は今秋の日本労働社会学会大会において口頭報告し、『学会年報』に投稿する予定である。
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