1993年に発足したEC共同市場により、EC域内、域外をめぐる人の移動も活発化し、その性格も明確となってきた。しかし、EC域内では、域内経済格差の縮少とライフスタイル・価値観の共有によって、人の移動は意外に少ないのが実情である。ビジネスマンや高学歴者や学生を中心に、域内の人の移動が促進される一方で、通常の労働者や一般職員の移動はむしろ少ないのである。EC市場統合は、人の移動という側面においても、階層によって異なる影響を受けている。EC市場統合の時期は、同時に「欧州市民権」という概念の形成・欧州統合という政治的文脈の形成、さらには旧ユーゴスラビア・ソ連の内戦や混乱と重なることによって、ECにおける「外国人」も多層化し複雑化し、「外国人」のカテゴリー分けの必要性が生じた。本研究では、これを、(1)EC諸国民、(2)定住化した非EC諸国民、(3)東欧・旧ソ連からの流入者、(4)途上国からの「難民」「不法入国者」の四つに分類した。また、西欧諸国が移民(外国人)労働者受け入れを停止した今日、ドイツにみられるように難民制度を利用した形での「経済難民」が集中する現象がみられ、「移民」と「難民」との区別と重なりを、法的資格と社会学的実態の双方向からみていくことの必要性が増した。現在、EC統合は市場統合に限定されているが、マーストリヒト条約にもとづく政治統合の段階に至ると、共通の難民政策や移民政策も本格的に問題化することが予想され、これまで触れられないできたEC各国の「国民」の定義という点でも、相互調整が必要化してくることになる。本研究の主要な研究対象は1993年EC統合であるが、1992年に大きな問題となったマーストリヒト条約にもとづくEC政治統合との関連でも「外国人」問題と検討する必要が出てきた。この問題を、次年度の研究計画の中に盛り込みたいと考えている。
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